日本語話者向け中国語学習:漢字から漢字への移行
日本語話者向け中国語学習:漢字から漢字への移行
日本語を話す人が中国語を学び始めるとき、最初に気づくのは漢字の存在です。見慣れた文字が並んでいる。これは大きなアドバンテージに感じられます。しかし、ここが落とし穴。同じ漢字でも、読み方、意味、使い方が違うことが多いのです。この移行をスムーズにするために、知っておくべきポイントを解説します。
見た目の類似点と相違点
日本語の漢字(漢字)と中国語の漢字(汉字)は、確かに共通の起源を持っています。多くの文字が同じ形、または非常に似た形をしています。例えば、「山」「川」「人」といった基本語彙は、どちらの言語でもほぼ同じ形です。これは学習初期における強力な味方です。単語帳を開いたとき、知っている文字がたくさん出てくるため、心理的なハードルがぐっと下がります。
しかし、細部に注目してください。中国の漢字は、大きく分けて二つの系統があります。一つは台湾や香港で使われる繁体字。もう一つは中国本土で標準となっている簡体字です。日本語の漢字(新字体)は、この中間的な位置にあると言えるでしょう。
例えば、「図」という字。日本語ではこの形です。中国簡体字では「图」、繁体字では「圖」となります。このように、字形が微妙に、あるいは大幅に異なる場合があります。特に簡体字は省略の度合いが大きいため、慣れが必要です。まずは、自分が学びたい中国語が簡体字か繁体字かを確認し、その字体に慣れることから始めましょう。
同じ漢字、異なる意味:偽りの友
これは最も注意が必要な領域です。「手紙」という単語を考えてみてください。日本語では、文字通り「手の紙」、つまりレターや郵便物を指します。中国語では、「手纸」はトイレットペーパーを意味します。全くの別物です。
このような単語は「偽りの友」と呼ばれ、学習者を混乱させます。他にも例を挙げましょう。
**勉強*: 日本語では「学習」の意味ですが、中国語では「無理強いする」や「値引きする」という意味になります。中国語で「学习」が学習に相当します。 **丈夫*: 日本語では「健やかで強い」様子を表しますが、中国語では「夫」、つまり主人や夫を指します。 **娘*: 日本語では「母親」ですが、中国語では「娘」は娘さん、つまり未婚の女性や自分の娘を指します。
良いニュースもあります。多くの漢字語彙は意味が共通しています。「学校」「学生」「経済」「社会」といった単語は、日中間で意味がほぼ同じです。このような共通語彙は、語彙力を爆発的に増やすための強力な武器となります。
読み方の根本的な違い:音読みとはここが違う
日本語の漢字には、音読みと訓読みがあります。中国語の漢字には、原則として「一文字一読み」の基本があります。ただし、例外となる多音字は存在します。
最大の違いは、中国語の漢字が音声情報を強く持っている点です。日本語の音読みは古代中国語の発音に由来しますが、時代を経て日本語の音韻体系に取り込まれたため、現代中国語の発音とは大きくかけ離れています。
例えば、「山」は日本語の音読みで「サン」です。中国語(北京語)の拼音では「shān」と表記され、発音は「シャン」に近いです。「人」は「ジン」と「rén」(レンに近い)。「水」は「スイ」と「shuǐ」(シュエイに近い)。
このギャップを埋めるには、拼音(ピンイン)の習得が不可欠です。拼音は中国語の発音をアルファベットで表記するシステムです。日本語のローマ字とは全く異なる体系ですので、最初はしっかりと時間をかけて学ぶことをお勧めします。四声と呼ばれる声調(高低アクセント)も、意味を区別する重要な要素です。
文法:漢字の知識が通用しない世界
これは核心です。漢字の知識は語彙の面では助けになりますが、文法ではほとんど役に立ちません。日本語と中国語の文法体系は根本的に異なります。
最も大きな違いは語順です。日本語の基本語順は「主語 - 目的語 - 動詞」(SOV)です。「私は本を読みます」という順番です。一方、中国語の基本語順は「主語 - 動詞 - 目的語」(SVO)で、英語に似ています。「我读书」となります。
また、日本語にはテニオハ(てにをは)のような助詞が豊富にあり、文の中での単語の役割を示します。中国語にはこうした助詞の体系はなく、語順と前置詞がその役割を果たします。
活用もありません。日本語の動詞や形容詞は「読む、読んだ、読まない」と形が変わりますが、中国語の動詞は基本的に形が変わりません。過去や未来などは、助動詞や時間を表す語を追加して表現します。
学習のアドバイス
1. **拼音を最優先する**: 発音の基礎である拼音と四声を、最初にしっかり固めましょう。これが後々の全ての学習の土台になります。 2. **漢字を「中国語の目」で見る**: 既知の文字でも、発音と意味を一から学び直す気持ちで臨みましょう。特に「偽りの友」には要注意です。 3. **文法はゼロから**: 漢字の知識に頼らず、中国語の文法を体系的に学び始めましょう。語順の違いを意識することが特に重要です。 4. **共通語彙を活用する**: 意味が同じ漢字単語は、積極的に覚えていきましょう。初級~中級レベルでは、これが大きな強みになります。 5. **簡体字/繁体字に慣れる**: 自分の目標に合わせて、どちらかの字体を集中的に練習しましょう。
まとめると、日本語話者にとって中国語の漢字は、強力な味方であると同時に、時に混乱を招く存在です。その相似点と相違点を冷静に見極め、文法の違いをしっかりと理解することが、漢字から漢字への円滑な移行のカギとなります。あなたの持つ漢字の知識は、正しく使えば、中国語習得への最高の近道です。